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Fabrice Millischer Interview 2018
トロンボーンで史上初のミュンヘン国際音楽コンクール優勝を果たし、「世界屈指のトロンボーン奏者」と称されるファブリス・ミリシェー。今までの経歴や現在の活動について、インタビューしました。(2018年7月8日・東京にて)
取材:ビュッフェ・クランポン・ジャパン 通訳:檀野直子
チェロとの両立のため、毎日8時間の練習をしていました。
トロンボーンのほか、サックバット、チェロを演奏されると聞いています。いつ、とのようなきっかけで楽器を始められたのですか。
ミリシェー 私の父はトゥールーズのキャピトル国立管弦楽団のトランペット奏者で、母も音楽家だったので、楽器を演奏することは、自分にとって自然なことでした。
子どものころから家にトランペットがゴロゴロと沢山あって、いつからからは覚えていませんが、触っているうちにトランペットが吹けるようになりました。6歳からはチェロを始め、コンセルヴァトワールに入りました。
トロンボーンから始めたのではなかったのですね。
ミリシェー トロンボーンを始めたのは15歳の時です。私は様々な音楽を聴きますが、その頃はジャズばかり聞いていて、コンセルヴァトワールのビッグバンドに入団したいと考えていました。トランペットは既に沢山の人が演奏していたので、人数が少ないトロンボーンをやろうと思いました。そこで、クラシックのトロンボーンを始めました。その時には既に、プロの演奏家になろうと考えていました。
トロンボーンをリヨン国立高等音楽院で、チェロをパリ国立高等音楽院で学ばれていますね。
ミリシェー リヨンにはトロンボーンのミシェル・ベッケ先生がいらっしゃり、パリのチェロのクラスはリヨンよりレベルが高かったからです。
ベッケ先生からは、音色や音の文化、フレージング、音楽の表現方法を学びました。ベッケ先生は長くトロンボーン・カルテットでも演奏されており、自分がカルテットで演奏する際に、素晴らしいお手本になってくださりました。
両立は大変だったのでは。
ミリシェー 私は睡眠時間が短くても全然平気なタイプなんです(笑)!コンセルヴァトワールで学んでいた時には、毎日チェロを5時間、トロンボーンを3時間練習して、その他に音楽理論、オーケストラなどの授業を受けていました。トロンボーンは唇に負担がかかるので、長時間の練習は無理ですし、弦楽器はマスターしなければならない両手の動きを習得するのに時間がかかるから、このような時間配分になりました。
チェロの経験がトロンボーンに役立つことはありますか?
ミリシェー チェロに関しては、最初の先生が教育者として優れている方でした。自分が生徒に教える際に、今でもインスピレーションを受けています。チェロはトロンボーンと違い、動きの全てを視認できます。先生は、動きを視覚的に理解させ、身体の動きで説明してくれました。トロンボーンは口の中を見ることができませんが、自分も同じように、唇の動きなどをしっかり見せて説明するようにしています。
また、レパートリーが豊富なチェロでは毎月違うコンチェルトを練習しました。バロック、古典、ロマン、現代の順番の繰り返しでした。おかげで、トロンボーンでも様々なレパートリーに対応できるようになりました。
トロンボーンの進化に貢献することにやりがいを感じています。
最終的にトロンボーンを選ばれた理由を教えてください。
ミリシェー 2007年、国立高等音楽院卒業後に最初に受けた国際コンクール(ミュンヘン国際音楽コンクール)で優勝したので、「じゃあトロンボーンをメインでやっていこう!」と決めました。もしチェロで最初に優勝していたら違ったかも知れません(笑)。
そして、トロンボーンは今も進化し続けている楽器です。チェロはレパートリーも既に幅広く、これ以上曲がたくさん増える必要はありません。一方、トロンボーンはまだレパートリーが少なく、今も新しい曲がどんどん生まれてきています。トロンボーンの進化に貢献できることにやりがいを感じています。
ミュンヘン卒業後のキャリアはどのように形成され、今に至るのでしょうか。
ミリシェー ミュンヘン国際音楽コンクールの優勝後、コンクールの演奏を聴いた人が声をかけてくれて、2008年にザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団の入団試験を受け合格し、首席トロンボーン奏者として2013年まで在籍しました。その後、2011年にフランスのクラシック音楽大賞である「ヴィクトワール・ド・ラ・ミュジーク・クラシック」で「最優秀若手ソリスト賞」をトロンボーン奏者として初めて受賞し、2013年にフライブルグ音楽大学の教授となりました。その後は、2014年にCD« French Trombone Concertos »がドイツの「エコークラシック賞」 を受賞し、昨年2017年にはパリ高等音楽院の教授に就任しています。
現在はソリストと音楽大学でのレッスン、マスタークラスを中心に活動をしています。
数多くの現代作曲家がミリシェーさんのために作曲されていますが、ご自分から依頼されるケースは多いのでしょうか。
ミリシェー 作曲家の方が自発的に書いてくださるケースと、自分が興味を持った作曲家に新曲を依頼するケースがあります。
ご自分から依頼する場合、どのように楽曲づくりに参加するのですか。
ミリシェー 依頼する時には、まず作曲家の方に楽器の編成、曲の長さ、「難解過ぎず、メロディーラインがあるもの」など、大枠だけお願いして、あとは作曲家のアイディアを大切にしてもらっています。もちろん、トロンボーンの演奏に関して無理がある場合は調整します。
特に面白かったプロジェクトはありますか。
ミリシェー パトリック・ブルガン作曲の「トロンボーンとオーケストラのためのコンチェルト」(別名「ルシファーの失墜」)です。この曲の収録が、2014年にEchoKlassik Preis を受賞しました。実は、ブルガンの息子さんとはトゥールーズで一緒にチェロを学んだ仲で、子どものときにブルガンが作曲してくれたチェロの四重奏曲を演奏したことがありました。その曲がとても気に入って印象に残っていたので、3楽章構成で20分のコンチェルトを依頼したのです。「ルシファーの失墜」は、チェロの天使ルシファーが空から落ちて、トロンボーンの悪魔になってしまう、というストーリーです。主題には私のイニシャルが使われており、 ファ、ラ(A)、シ(B)・・・とフルネームで旋律が奏でられます。まさに自分のストーリーのように感じています。
バロックから現代音楽まで、幅広いレパートリーを演奏されていますが、今使用している<アントワンヌ・クルトワ>のトロンボーン、”レジェンドAC420 NSBHST”について、教えてください。
ミリシェー 自然に息が入り、柔軟で吹きやすい楽器です。シルバーのベルから出る音色は素晴らしく、タンギングがはっきりしているところが気に入っています。
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演奏活動、教育活動でも、フランスとドイツを中心に活躍されていますね。フライブルグ音楽大学とパリ国立高等音楽院で教授を務められていますが、それぞれどのような学校ですか。
ミリシェー ドイツの大学は国際的で、フライブルグの自分のクラスには外国人しかいません。一方、パリはフランス人ばかりです。
ドイツの音楽市場はフランスよりも大きいので、日本、中国、スペイン、イギリス、アルメニアなど世界中から外国人生徒が集まってきます。卒業後もドイツでは仕事があります。
ドイツとフランスでは、トロンボーンの奏法などに違いはあるのでしょうか。
ミリシェー フランスには「エコール・フランセーズ」と言われる楽派があり、トロンボーンの音の美しさ、柔らかさを重視し、他の楽派と異なります。
ミリシェーさんに学びたい、という学生さんは多いと思いますが、どのような生徒に教えたいと思いますか。
ミリシェー 音色、技術、音楽性が揃った生徒です。その中で、音楽性は特に重視しています。精神的に型にはまり過ぎず、個性を持った生徒がいい。音楽表現は、個性がないと表現できませんから。
今後やりたい事、予定はありますか?
ミリシェー たくさんあります!新しいCDもリリースされますし、リシャール・デュビュニョンの「ナポレオンの墓」という新しいコンチェルトを、ヨーロッパと東アジア、メキシコで演奏します。
また、実は今、教則本を書いており、10月までには完成予定です。効果的な練習方法について学べ、初歩から上級まで練習できる本です。
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